8.252010
理想のジギングフックとは?|テクニカルノート
理想のジギングフックとは?
1)フックの形状に対する僕の基本理念
ジギング用のフックを考える時、認識しなければならない事がある。
ジグに取り付けるフックとエサ釣りに使われるフックとの形状の違いだ。
魚が捕食行動を取る時、その対象となるフックには注意すべき大きな違いが存在する。
エサ釣りに使用されるフックはエサの中に埋め込まれた物であり、魚はフックとエサを同一視し捕食に至る。
ところがジグに取り付けられたフックの場合、魚にしてみれば捕食対象はあくまでジグの方であり、ジグを丸呑みしないかぎり、ジグとフックには距離が発生している。フックアップしたターゲットはフックに喰いついたのではなく、あくまでもジグにバイトし、その瞬間に近くにあったフックが吸い込まれフッキングに至るのだ。現在、ジギングで主流となっているアシストフックは、少しでも魚の捕食するジグの位置へフックを装着しフッキングの確率を上げるために考え出されたシステムだ。
話は少しそれるが、シャウト!にはサバ皮やオーロラスレッズでアピール性を高めた、ジャコフックという商品がある。これについて「シャウト!のジャコフックはジグではなくフックに喰い付いてきているのか?」とよく聞かれる。僕自身、正直いって魚に聞いたことがないので解からない。しかし、捕食対象がジャコフックとジグのどちらであったにせよ、細軸のフックに軽いマテリアルで飾り付けされたジャコフックはバイトの瞬間に太軸のフックに何も付けていないアシストよりも口の中に吸い込まれやすい事は事実だ。ジギングに適したアシストフックとして吸い込まれやすさ、すなわち「軽さ」は重要な要素の一つなのだ。
では、もう一つの要素である「形状」はどうだろうか。ジギング用としてフッキングしやすいフックの形状を考える時、アユ釣りのフックからは勉強させられる事が多い。ターゲットが捕食(アユの場合は体当たり)しようとしている対象とフックに距離がある所がジギングに似ているからだ。
口の中に納まったフックを引っ張り出してフッキングする釣りとは違い、アユの鈎は一瞬の体当たりでフッキングに持ち込む性能がある。ジグを追ってきた対象を友釣りのように引っ掛けたいわけではないが、アユのフックはどのフックをとっても単に鈎先が鋭いだけではなく、その形状には考え抜かれた拘りがあり、多種多様な形状の微妙な違いはフィールドで大きな違いとなって現われる。
形状では微妙に違うアユのフックだが、全てに共通する点が一つある。フックの先に触れた瞬間ラインが引っ張る方向にフックポイントが向けられている事だ。(図1)
この鈎先の向きであれば引っ張られる方向にまっすぐ突かれるので小さい力でもフッキングが可能だ。
一般的にフックはAの方向に引っ張られ刺さると思われがちだがそうではない。フッキングのパワーがフックポイントに伝わるフックの姿勢、つまりBの方向に引っ張られた時にフックは刺さりだす。(図2)
どのようなフックでもフックポイントに負荷が掛かる前の静止状態と刺さり出す瞬間のフックの姿勢は違う。この姿勢の差を
鈎の「逃げ」と呼んでいる。(図3)
このフックの逃げを見るにはハリスをセットした状態で自然にフックをぶら下げてフックポイントに指をあててみる。そしてハリスを引っ張ってみるとフックの姿勢が変化していくのが見てとれる。逃げ角度の大きいフックほどフックポイントが魚の口に触れてから立つ(刺さりだす)まで時間と違和感を魚に与えるフックと言える。
極端な例を上げれば、ハエ縄鈎のような逃げがほとんどないフックはフックポイントに触れた瞬間からフック逃げることなく刺さりだす。フックポイントの向きと引っ張る方向が同じなので力の分散がまったく無い。ジギングで使用した場合の欠点はこの形状のせいでフックポイントが刺さるべき所に触れるチャンスは少ない。軸はかなり太く重いが基本的にエサごと丸呑みさせて引っ張り出し、口の周りに掛けるフックなので、ジギングに使った場合は完全に口の中にフックが入り、吐き出す前にフッキングしないと掛からない。形状によるフッキングパワーの伝達性能と軸の太さによる強度は最高のフックだ。
一方、(図4)のような逃げの多い鈎はハリスを引っ張ってフックポイントが立った時に鈎先の最も抵抗なく刺さる方向と引っ張る方向の角度が大きい。前述のハエ縄鈎に比べフッキングに力が必要だ。ジギングに使った場合はフックポイントが魚体に触れるチャンスが多いのでヒットする確立は高い。
ただし、しっかりとフッキングしないとフトコロまで刺さりきらずバレが多い。口の奥深くでも刺さり始めるので、歯のある魚ではハリスが切れる原因になる。硬いところだと貫通しなかったり、口内の身を切って滑ってしまう事や、逆に浅いスレ掛かりが多い。
2)釣り鈎の素材
鈎の素材はその多くが鍛鋼だ。鍛鋼とは鍛造可能で焼入れのできる鋼の事で、そのうち屈伸や折損の少ない中炭素鋼が釣り鈎には使われている。
中炭素鋼は炭素含有量が0.6~1.0%のものを意味する。鋼の硬度は炭素含有量によって増加するが、硬度と共に弾力も必要な釣り鈎にはその炭素含有量にも限界がある。日本刀に使われている鋼は「玉ハガネ」と呼ばれ炭素含有量は8.9%にもなるが、釣り鈎に使われている鋼はそれほど高い含有量の物ではない。一般的にカーボン100と呼ばれている鈎は1.0%の鋼の事でカーボン60なら0.6%の鋼を意味する。焼入れをする前の硬度は1.0%の方が強いのでカーボン100の方が良い鈎だと思われがちだがそうではない。焼き入れをする事でその強度は数倍にもなるが、やり方次第ではカーボン60の鈎が100を上回る。焼入れの温度と冷却速度、冷却に使う焼き入れ液の種類と温度、線材の太さ、大きさなどの要素とその後の焼き戻しが絡み合い釣り鈎は製造される。現在、技術の発達によってバナジウム、リン、マンガン含有の鋼などいろいろな素材があるが、結局は前述の焼き入れ次第で鈎の性質は大きく変わるのである。
3)理想の鈎、その一例。
シャウト!のクダコフックはこれまでに述べた僕の鈎の知識とテスト結果から生まれたフックだ。
ここまでに述べた「釣り鈎」の特性を理解してもらえれば僕がこのフックをどう考えてデザインしたか解かって貰えると思う。最大の特徴はアップアイと呼ばれる外側に曲げられたリング。これはフライフックによく施されている形状で、アシストフックに加工したときのための配慮だ。従来のストレートアイのフックを使ってアシストフックを作った時、太くて張りのあるラインほどリングから出たアシストラインがフトコロ側に張るので静止状態からフックポイントが立つまでの逃げが大きくなる。
クダコのアップアイはラインをストレートに出せるので逃げ幅が少ない。エサ釣りのフックの常識からすればとんでもないフックだがハリスの種類や硬さが全く違うのだから形状も違って当然と考えている。もう一つ拘った点が鈎先のテーパーだ。太い鈎ほど刺さる時の抵抗が大きい。鈎の製造工程の中で「尖頭」(せんとう)という作業がある。線材を削って鈎先を作る作業で、一般的な釣り鈎は「三本先」と呼ばれる尖頭を施す。「三本先」とは線材の3倍の長さを削る事を意味する。すなわち線材の直径が3mmなら9mmの尖頭をする訳だが、クダコフックはそれよりも長い「五本先」の尖頭をしている。
こうする事で鈎先のテーパーは通常の三本先よりも鋭角になり、よりスムーズに刺さるフックになる。
ただし、欠点として鈎先が鋭角になるという事は細くなるという事であり横向きの力に対しては三本先の方が勝る。つまり、フッキングが弱く刺さりきらずに魚の負荷をフックポイントで受けて横向きの力が加わった場合は三本先よりも弱いという事だ。しかし、あくまでもフックポイントの仕事は刺す事であり、魚とのやり取りをするのは、フトコロだ。前述のような場面はしっかりとしたフッキングにより回避できると考え、クダコフックではスムーズに刺さる5本先を採用した。クダコフックはそのような特徴のあるフックで短所もあれば長所もある。メーカーに勤める者として、自分自身がデザインしたフックの短所は言いたくないのが本音だ。しかし、短所は長所であり逆もまた真と言える。クダコフックの短所としてはカン付きのため重い事が挙げられる。カン付であるがゆえに、強度がありリアフックでの使用を可能にしている反面、重く太軸のためフッキングに力がいるのだ。特にフッキングパワーの小さい女性や初心者では刺さりきっていない事があるようだ。僕のよく行くジギング船の船長からもそんな相談を受け、近海用に新しい鈎を来年発売する事となった。このフックではフッキング性能の向上と軽量化を優先した。
プロトタイプを見て貰えばわかる通りフックポイントの方向からフッキングパワーの伝達に優れた形状だ。
その分、先に述べたはえ縄鈎ほどではないが鈎先が魚体に触れるチャンスは少ない。スレで掛かる事はまず無いが、口の中にフックが入れば必ず刺さりきる。ダブルバーブ(二つのカエシ)は通常のシングルバーブに比べそれぞれを小さくして刺さる時の抵抗を軽減し、なおかつカエシによる保持力を高めた。カン付きにせず撞木にしたのは軽量化のため。はっきり言って一般的にこれまでのジギング用フックと比較すると、この形状は抵抗のあるフックだと思う。しかしこの記事を読み、使って頂ければその意味を理解して頂けるフックと信じている。
様々な鈎を論じてみたが、どのタイプのフックも形状的に一長一短があり、ジギングでもいろんなターゲット、深さ、ボトムの状態、魚の生態とその活性がある。どんな状況でもこのフックだと言い切れるフックは残念ながらない。しかし、様々な状況の中から最適のフックを選び出す知識を持つ事こそ重要なのでは無いだろうか。
それが釣りの楽しみ方だと考えるのは僕だけではないと思う。
小野誠